スロウな本屋

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スロウな本屋ができるまで

書店勤務の傍ら移動本屋を営む中、「お店はどこにあるの?」そんなお声をたくさんいただきました。2015年春の実店舗始動に向け、場所探しからスタート。戦前からひっそりと佇む岡山駅からほど近い三軒長屋のひとつに心を決めてから1年間。店主ひとりでは決して成し得なかったスロウな本屋ができるまでの道のりをご紹介します。お力添えくださった全てのみなさまに、こころからの感謝の気持ちを込めて。

第1章

1. 場所、決まりました!

2014年3月

スロウな本屋の場所、見つかる。
岡山市北区南方。岡山駅から徒歩約15分。近くには岡山地方裁判所。けっこう街中なのに、この辺りだけぽっかりと別の時間が流れている静かな場所。

この家を探し出して下さったのは、ちえのわ不動産さん。早々に内覧させていただき、いいなぁという想いと、本当に大丈夫? という迷いと。通常、内覧から2~3日で決めないといけないところを、「しっかり迷って下さい」 と辛抱強く待ち続けて下さって。

朝に夜に、連日周辺を歩き回って、よし、ここでやってみよう! と決意。決めるって怖いんだ、とはじめて気付く。一旦決めたら、ワクワクしている自分がいた。

戦時中、空襲でほとんど焼失してしまった岡山市街で、戦火を生き延びた貴重な建物。大切に使わせていただこう。この場所で、これからどんな時間を紡いでいけるのだろう。

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2. 大掃除

2014年4月

大掃除初日、友人たちが駆け付けてくれる。畳を一枚ずつ持ち上げ、バンバンとほこりを叩き出す。畳がこんなに重いとは。

準備したホウキでは到底追いつかず、「使ってないのがあるから」と、ichi-café 店主・戸田さんが、業務用の掃除機をお持ち下さる。文明の利器はさすがの威力。小さな助っ人軍団も登場、障子をビリビリ。押し入れに大興奮のふたりの姿に、未来へのヒントが。

しばらく大掃除の日々が続く。畳のホコリ叩きをしていたら、同じく改装中のご近所さん、「この畳捨てるんだけど、状態がいいやつ使わない?」。もちろん頂戴する。新しい隣人・Nさんが、「おうちが見てみたかったから」と雑巾がけを手伝って下さる。雨の日には障子を屋外に出し、湿らせてから障子紙をスルスルはがしてみたり(恵みの雨!)。表で遊んでいた小学生が見物にやってきて、気が付くと小1K君、雑巾片手に働いていた。

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3. ペンキ

2014年5月~6月

室内が薄暗い。ペンキを塗ろうと思い立った途端、ペンキがやってきた!ペンキ塗り経験者、ご近所のNさん夫妻から、「白いペンキが余っているから、どうぞ」。塗る際の注意事項や、必要な道具も教えていただく。

ペンキ塗りには、「養生」というものがつきものらしい。幼なじみのSさんは塗装屋の娘。無理やり講師をお願いして、マスキングテープ貼り。(Sさんはその後、長い改装の日々を付き合わされることになる)。自分ではまっすぐのつもりが、よく見ると1ミリくらいズレていたり、結構難しい。Sさんの指導のもと、養生の基礎 「とにかく全部覆っておく」 を叩き込まれる。

ペンキ塗り初日は、Aさんファミリーと共に。小学生Mちゃん&Tちゃん、ズンズン塗ってくれる。以降、Aさんと共にYさんも頻繁に足を運んで下さることになる。ご近所ネイロ堂。さんのご紹介で、NPO晴れ間のみなさんが続々と。初対面の方でも遠慮なく手伝っていただく。出逢いがいっぱい。

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第2章

1. 縁側に珪藻土

2014年7月

真夏日に、珪藻土を塗りはじめる。ご近所のNPO晴れ間のWさんが、本日の壁塗り講師。そのご友人Iさんや、いつも来て下さるAさん親子、その朝お逢いしたばかりのご近所Mさんの応援で。

壁塗りに使うコテは、ichi-caféさん、と晴れ間さんにお借りする。パレットのようなコテ板は、段ボールに養生シートを巻き付けた自家製。

珪藻土は難しい。厚く塗りすぎて馴らそうとすれば、すべてこそげ落ちてしまう。苦戦するうち、次第に珪藻土の残量が心もとなくなり、水を足してかなりアメリカンな状態で、無理やり塗る。

珪藻土2日目。仕上げ塗り。
のらくら堂さんと、朝から打ち合わせを兼ねて珪藻土塗り。ケーキの仕上げと壁塗りは、もしや似ているのでは、と来ていただいて大正解! お菓子同様、ていねいな仕上がり。
午後からは、またまた晴れ間のWさんが、「壁塗りやってみたかった」 というHさんと共に。はじめてとは思えない美しい仕上がり。店主は二度目だというのに、一番荒々しい仕上がり。誰がどこを塗ったか一目瞭然。壁塗りには性格が出るのだろうか。

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2. 押し入れ

2014年8月

スロウな本屋ではじめてのワークショップ。講師は造形作家の平山路子さん。やってきた6人の子どもたちと、あか、あお、きいろ3色を使って、自分だけの色づくりから。同じ3色なのに、だれひとり同じ色はなし。
「色に名前をつけてみて」平山さんのことばに、うみのそこ、まじょのは、しんぴんのはっぱ、オオカミブルー・・・新色、続々誕生。

白い画用紙に、えんぴつで6つの部屋に分かれるように線を引く。もう1枚にはマルをたくさん。「線の中を、自分で作った色で塗ってみよう!」
枠の中を丹念に全部塗る子、星の形に塗る子、ストライプやチェック柄に挑戦する子。みんな、とても自由!

描いた絵をカードのようにチョキチョキ切り取り、それらを押し入れの天井にペタリ。みんなの描いた絵が混じり合い、押し入れはとても愉しい空間に。小さなピカソさんたち、ありがとう!

2014年9月

絵カードを、なんらかの形で貼ったり、はがしたり、動かしたり、子どもたちが自由に触れられるようにしたい。編集者Oさんから、絵の表面を保護するスプレーの差し入れ、届く。造形作家の平山路子さん、Nさん親子、Aさん親子で、絵カード裏面にマグネット付け。緻密な作業を延々と。

2014年10月

押し入れ天井部分に、マグネット塗料を塗る。3度塗りが必要で、塗ると真っ黒になり、2度目以降はどこまで塗ったかさっぱりわからない。珪藻土塗りを手伝って下さったHさんが、ご友人Oさん、MRさんと応援に。最後に白いペンキで仕上げて、絵カードが自在に動かせる天井に。

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3. 縁側の床

2014年9月

縁側の床には、あろうことか木目調のビニールクロスが。どうしたものかと悩んでいたら、絵本の納屋のFさんが「縁甲板がいい。今から行きましょう」 と、郊外の巨大ホームセンターへ連れていって下さる。

しかし、スロウな本屋、大失態!せっかくカットしていただいた縁甲板、なんと肝心の寸法を間違えていて。ど、どうする…!? ご近所さんから「電動のこぎりあるから、使っていいよ」 これは助け舟なのか?

青ざめていたら、Fさんが最強の助っ人を紹介して下さる。本職は外装のプロというMさん。長すぎた縁甲板を、電動のこぎりでギュワーンとカット。一枚ずつはめ込んで、釘で打ち付けて下さる。

トントントーン。いとも簡単そうに釘を打つMさん。体験させてもらうと、これが非常に難しい! 釘が板を傷めないように、ポンチという道具を使うのだが、スルリとはずれ一本も打てやしない。

そんなわけで、結局全てMさんが仕上げて下さる。縁側の隅っこ、柱が少し飛び出してジグザグした部分も、のこぎりで切って調整。プロの見事なお力添えで、大変身の縁側。なんだか座ってみたくなりません?

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第3章

1. 箱

2014年8月~9月

押し入れ棚で使う木の箱を作ろう。材木(カット済)までは手配したものの、DIY経験値ほぼゼロの店主。途方に暮れていたら、救世主現る!

ペンキ塗りで何度もお世話になったYさんと、お連れ合いJさん。Jさんは、ロボットまで自作してしまう凄腕の持ち主。材木に印をつけ、電動ドリルで穴をあけ、そして釘打ち、カンナかけ。大変な作業をほとんどおふたりでこなして下さったばかりか、時間切れで作り切れなかった箱(この方が多い!)を全て持ち帰り、仕上げて後日届けて下さった。その数21箱。

たくさんの方のあたたかいお気持ちと手に、支えていただいていることの、なんたる幸せ。感謝!

(Jさんには1年後、スロウな本屋が開店してからも、その敏腕ぶりを発揮していただくことになるのですが、もちろん、この時まだ誰もそんな未来を知る由もなし…)

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2. レジカウンター

2014年9月

小学生女子、縁側の仕上げ作業中のMさんと電動のこぎりに興味津々。余った板で、子どもたちとMさんの3人で、トンカン棚を作ることに。出来上がった棚は、店主が作業をするのにぴったりの絶妙な高さ。この棚、レジカウンターにできるかも!?

2014年10月

レジカウンターには、カウンター板が必要。ふと、廃材で作れないだろうかと思い立ち。「廃材って、どこで手に入るんですか?」建築設計事務所を営むTさんに伺ってみると、「うちにあるから、持っていってあげるよ」。廃材と呼ぶにはもったいない、きれいなカウンター板を頂戴する。感謝!

Mさんにご相談しながら、店主の身長に合わせたレジカウンターの制作開始。押し入れ用の木箱を作った時の端材も総動員。Mさんのお仕事ぶりは、何度見ても無駄がなく小気味よい。

2014年11月

Mさんが足りない部分の廃材を集めてお持ち下さる。「千鳥で行きましょう」 下段にはサイズ違いの板を交互に並べて。レジカウンター、完成!

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3. 柿渋

2014年10月

押し入れで使う木箱に柿渋を塗ろう!
と思ったのは、ご近所の名店・コタンの柿渋を塗ったカウンターが、なんともいい風合いだったから。塗り方も教えていただいたコタンで柿渋を入手。水で3倍に希釈して、柿渋塗り開始。

しかし、全く色が出ない!? 次の作業日は2倍希釈で試すも、やはり色が付かない。ならばと、原液のまま薄めずに塗ってみても変わらない。何か間違っているのだろうか…!? とボヤいていたら、染色に詳しい方が「お日様に当てると、段々色が変わっていくのだ」 と教えて下さる。以後、柿渋を塗った箱たちは、縁側で日光浴。乾いた箱から2度塗り、そしてまた日に当てを繰り返す。

友人知人、はじめましての方、仕事の打合せにいらした方まで、のべ11人の手をお借りして、21個の箱と縁側、そしてレジカウンター(後述)に柿渋を塗り終える。この間約1か月。それは強烈なニオイ(銀杏によく似ている・・・)との闘いの日々でもあった。

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第4章

1. 玄関

2015年1月

ある寒い日、車で向かった先は岡山市南区、まもなく解体される立派なお屋敷。使えるものがあればどうぞと、ご近所・菱善地所さんのあたたかいご配慮。建具やら庭木やら、これらがすべてゴミになってしまうなんて…。

無理を言って同行していただいたのは、岡山県和気町で代々建具屋を営むIさん。一緒に見ていただき、初日は外玄関の門扉を微調整して早速取り替えて下さる。その手際のよさ!

後日、Iさんとご友人で地域おこし協力隊のKさんと共に、お屋敷再訪。目を付けていた縁側のガラス建具を頂戴する。スロウな本屋に一部、残りはKさんが手掛ける古民家の改修に利用することに。重い建具も颯爽と運び出すIさん。

2015年3月

玄関大変貌! 縦も横もサイズが大きすぎたガラスの建具を、建具職人Iさんが見事に調整して下さり、ピッタリ! ご近所のみなさんが見物に集まってきたほど。光が入るとぐっと明るくなり、店内が外から見通せる玄関に。後日、様子を見にいらした菱善地所のMさんがポツリ。「家って、やっぱり玄関大事だなぁ」

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2. 庭

2015年1月

建具をいただいた解体寸前のお屋敷の庭から、スイセンを持ち帰る。雨の中、菱善地所のMさんが掘り起こして下さった。花をつけた一輪から春の香り。スロウな本屋の小さな庭に移植するも、欲が出て、その後2回も再訪。ツワブキ、ハラン、丸い石など頂戴する。

お屋敷の前で畑作業をしておられた年配の女性。事情を説明すると、「それはええ。どんどん持っていって使いなさい。私もずーっと見とった景色が変わるから残念なんよ」。そして八重咲きのスイセンを掘り起こして下さり、「これも持っていきなさい。スイセンはつぼみが開く時、いちばんええ香りがするんよ」

2015年3月

お屋敷からは明治期の古瓦も頂戴した。小さな庭に埋め込み小道を作る。初日はAさんファミリーとご近所さんの応援でひたすら掘る。しかし、瓦を丸ごと一枚埋めるにはかなりの深さが必要。「半分に割れば、掘るのも半分で済むんじゃない?」 雨が降ってきて、この日は数枚で終了。

作業2日目。関東から妹家族到着。瓦をグラインダーとやらで半分、時にそれ以下にカット。爆音と砂煙モウモウ。体重に自信のある妹一家総出で大騒ぎで踏みしめながら、一枚ずつ並べてくれた。

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3. カウントダウン

2015年2月

お手洗いの床にタイル貼り。不器用な人間がやることではなかったと気付くも、後の祭り。細部に全く美は宿らず、できればナカッタコトにしてしまいたい。凹みかけていた時、たくさんの激励メッセージをいただく。全面貼り終えるのに、ひと月もかかってしまった。見に来た人がポツリ 「味わいがある」。味わいとはなぐさめの表現だった。

2015年3月

玄関壁面に珪藻土塗り。今回もお借りしたコテで。初日は昨夏同様ご近所のMさん、Aさんの応援。2日目はMRさん、Fさんと。手仕事とおしゃべりは絶対に相性がよい。

下段の腰板には墨色のミツロウワックスを塗るも、つるりとした板肌には無理があった。完敗。Sさん、Fさん、手を真っ黒にして手伝って下さる。

2015年3月

KITAWORKS木多隆志さんの本棚が届く。嬉し過ぎる!OPEN初日、どの本を置いてあげよう。

ようやく本屋らしくなってきた。ここまで、どれだけたくさんのあたたかい手に支えられてきたことか。これからが本番。みなさんのお気持ちを無駄にしないよう、いい本屋にしていかなくては。開店日まで、あと少し。

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