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スロウな本屋 店主おすすめ ほんのはなし

生きものとしてのからだを取り戻す

『からだのーと』

「人間は、動物。だから、本来はうごくものです。太古から森を歩きまわり、狩猟したり、畑を耕し、からだをうごかして、たべるものを得ることがしごとでした。けれども現代の文明社会では、わたしたちは、生きものとしての野生のからだを、生きているでしょうか。いまでは、まいにちが消費者としての暮らしです。たべものを買うお金のために、机のまえではたらきます。運動不足のせいで浅い呼吸のひとが増えています。どうも調子が出ない、モヤモヤしたからだをかかえています」

早川ユミさん。布作家。四国の山あいの村に移住して20年。土を耕し、種を蒔き、ご飯をつくる。アジアの布、日本の織り布、紡ぎ布、リトアニアの麻布、山岳少数民族の布、植物染めの布から、ちくちく手縫いで衣服を作り、展覧会を開く暮らし。

「ものつくりには、身体性がだいじ」 そうユミさんは言う。手とからだが繋がり、作品をつくる。手がからだを動かし、からだが手を動かす。からだが固くて動かなければ、ものは作れない。手の中だけで縫うのと、大きな腕のバネの動きで縫うのとでは、ちくちくの表現が違うのだ、と。これは、作家の仕事に限らず、あらゆる職業、あるいは子どもや大人のいかなる活動にも当てはまること、火を見るより明らかだ。

畑の野菜を育てるように、愛おしい布を一針一針縫うように、からだをいたわり手当てを実践してきたユミさん。本書は、ユミさんから私たちへの、からだ育てのレッスンの書。単なる健康法などではない。からだとこころ、その深部にまでたどっていく生き方の書。自分のからだと向き合い、からだという自然観をつくることで、ひとは自分自身をもっと生きやすくなる。

からだの不調に対して、治っていこうとする自助の力を、私たちのからだは元々備えている。その力を信頼し、本来のからだを取り戻すために、ユミさん、まずは何から?

「ひとつめは、呼吸のレッスン。生きることは、息をすることです」

丹田呼吸法。からだの真ん中、中心軸でもある丹田を意識する呼吸で、集中力や精神力が増し、ものごとに動じなくなるという。呼吸とは単に吸って吐くことではなく、体内に気を取り入れること。太陽や月、木や土と繋がり、気を取り入れていくうちに、自然の中にある自分に気付かされる。

「ふたつめは、からだを温めるレッスン」

冷えとり、お風呂、半身浴、温める食事、衣服、湯たんぽ、テルミー療法などなど、ユミさんが実践してきた数々のエピソードが綴られる。私たちのからだを包み、一日中皮膚に触れている衣服は、中国の経典『四書五経』では「着る薬」と言われ、東洋医学では薬を「一服二服」と数えるのだそう。天然素材の衣服を作るユミさんは「ちくちくの自給自足」も提唱、「もう買うパンツには戻れない」なんて名言も飛び出す。第三の脳とも言われる皮膚。素肌に触れるものは、存外大切なのだと知る。

「さいごに暮らしのなかの、からだとこころを生き生きさせる療法」

畑仕事、動物たちとのふれあい、旅…。からだを巡るエッセイの中で、ユミさんはこう綴る。

「わたしをわたしらしく生きようとすると、棚田をかけまわり、うごいてしまう。そんなじぶんの姿にじぶんでも、おどろいてしまいます。

そう、わたしのからだには、思わぬちからがあるってことに気づきました。自給自足しようとかは、あとからくっついてくること。ほんとうは楽しくてうれしくて、つい、からだがみつばちの巣箱を見まわり、手が大根の種をまき、茶豆の皮をむく。

なんだろう、これは? わたしのからだは、うごけばうごくほど、うごけるように元気になってくるのです」

自分の呼吸にかえろう。
自分のからだに、微笑みかけよう。
自分のからだを、愉しもう。

わたし自身を大切にすることが、まわりの人に優しい気持ちを抱くことに繋がる。平和な社会をつくる秘訣は、わたしのからだを慈しむこと。からだとこころ、その見えないものを、しっかりとみつめてゆこう。からだ育てのレッスン、はじまりはじまり!

文/小倉みゆき

からだのーと

著者/早川ユミ
出版社/自然食通信社
サイズ/144ページ22*18.5cm
発行(年月)/2016年1月

販売価格 ¥ 1,944(本体 ¥1,800)

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